研究報告要約
調査研究
29-111
秋田 亮平
目的
素材の振舞いを観察することから、デザインの可能性を考えてみる。熱を加えると収縮変形する熱可塑性不織布の特性を応用し、その「変形のデザイン」を通して立体成形の可能性を探求する。
平面から立体への展開は日本では馴染み深く、着物や折り紙などがあげられる。特に折り紙は現在では世界中で様々な研究者、デザイナーがその可能性を探求している。その先端的な研究のひとつに、MITのSelf-Assembly Labが行っている自己組成をコンセプトとした研究があり、その中にProgramming Materialという研究テーマがある。変形の原理を3Dプリンターなどデジタルファブリケーションによる加工技術などに応用することで、自己組成する素材を開発するというものである。
その研究を参照し、3Dプリンターを用いた加工技術を先行研究に応用することにより、本研究の独自性である熱可塑性不織布を加熱することにより自己組成する構造を明らかにする。
内容
熱可塑性不織布が変形する原理は、加熱することで不織布を構成する繊維状の熱可塑性樹脂が軟化、収縮し、繊維間が密になることで布全体が不定形に収縮することによる。それは、素材の生成時にプレテンションされていた力が、加熱により開放しているといえる。言い換えると、素材に内包されたエネルギーを加熱することで開放するように、あらかじめプログラムされているともいえる。骨となるパターンとこのプログラムを重ね合わせることにより、加熱することで平面から立体へと自己組成するためのエネルギーとして機能させることが可能となる。
制御するパターンがうまく機能したとき、形を開花させるプログラムは発動するのである。
本研究では素材と技術の原理を生かすことで、双方の可能性を引き出すような加工方法として、3Dプリンターによる加工技術を模索する。熱可塑性不織布を基材とし、直接プリントすることにより素材の一体化を図っている。
方法
熱可塑性不織布の新たなかたちを開花させるためには、加工技術とパターン展開、双方の検証が必要となる。加工技術においては、如何にして熱可塑性不織布に3Dプリンターから出力した部材を溶着させるかという課題がある。出力する樹脂の検討、3Dプリンター、オペレーションソフトの適正な数値および加工方法を探求することで、本加工技術の確立を目指す。パターンの検証では、試作と加熱実験結果のフィードバックループにより、素材にとっての最適なパターンとプロポーションを検証する。
そこでの評価基準は①収縮変形後の滑らかさ②平面から立体化への度合いとする。①は変形後の状態を観察することにより、変形時の力の流れを考慮したパターン・部材設計に生かすことを目的とする。②は変形時の高さ方向の変化を評価することで、パターンと収縮変形の関係を設計に生かし、変形率の高いパターンの検討に生かすことを目的とする。
結論・考察
本研究により、熱可塑性不織布に直接3Dプリントする技術を提供できたと考えられる。元来、型による立体成型を想定した素材だが、当技術により必要なときに加熱することで立体成型が可能となり、プロダクトレベルであれば様々な展開の可能性を提供できたものと考えられる。また、パターンおよび部材設計においても、ヒンジを採用することで、平面から立体への展開の度合いとしては、ある程度の基準に到達したといえる。
次の段階としては、如何にスケールアップをしていくかが課題となる。熱可塑性不織布の収縮力だけでは、平面から立体化への自己組成化に限界があるため、単純にスケールアップをするだけでは、おそらく実現のハードルは高いと考えられる。
本研究では、熱可塑性不織布に特化したが、自己組成化というコンセプトにおいて、熱可塑性の素材は可能性があるといえる。
その見据える先には、インスタント・アーキテクチャー実現のために、研究を継続していく。
英文要約
研究題目
A research on “design of transformation” of thermoplastic nonwoven fabric using digital fabrication.
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Ryohey Akita
Department of Architecture, Faculty of Fine Arts Tokyo University of the Arts Reserche Associate
本文
From observation of a material’s behavior, we research the possibility of design.
By utilizing the property of thermoplastic nonwoven fabric that contracting and deforming when heated, we explored the possibility of three – dimensional molding through the research on “design of transformation”.