研究報告要約
国際交流
6-203
柳沢 究
目的
申請者らが独自に考案した「住経験インタビュー」では、建築学生がその両親・祖父母にこれまで暮らしてきた住居について聞き書きを行う。約100年前から現代にいたる多様な住まいとそこでの生活の変化を間取り図とともに描く営みであり、ある国における文化や価値観・考え方などを理解するために極めて優れたコンテンツとなる。
今回の活動では、2013〜23年に日本7大学・高専と海外2大学で実施した住経験インタビューの成果物(約500人・3000軒の住居と住み方に関する記述と間取り図。日本で学ぶ留学生も多く参加し参加者の国籍は十数カ国に及ぶ)の展示を通じた住文化の理解および住宅デザインのためのツールとしての住経験インタビューの可能性を発信し、また海外研究者を招聘した国際シンポジウムを開催し、異文化理解と国際交流の観点から議論を行う。
本活動を通じて招聘研究者や参加者が住経験インタビューの魅力と可能性を理解し母国や勤務先に持ち帰り将来的に住経験インタビューを実施するなど、活動のさらなる国際的な展開と住経験インタビューを軸とした交流の基盤を築くことが、本活動の大きな眼目である。
内容
●展示会【住み方発見!! Home Life Diaries in Japan】展
◯会期:12月2日〜15日(11時〜17時頃(日没まで)、12/9休館)
◯会場:ギャラリー日本橋の家(大阪市中央区日本橋2丁目5−15
◯展示概要:
これまで約500人の学生が住経験インタビューに取り組む中で描き出されてきた住まいの事例からユニークな住み方を示す間取りを100点程度選り抜き、4つのテーマに分けて解説とともに展示した。また住経験をテーマとしたインスタレーションを行った。
・住経験研究の紹介[1F]
・描かれた間取り図のアーカイブ[1F]
・住まいの遍歴[1F]
・「日本橋の家」の住み方[3F中庭]
・「普通」の住まいのさまざまな生活 [3F寝室]
・他者とともにある住まい[4F寝室]
・ちょっと「変わった」住まいと住み方[4F寝室]
・来場者参加コーナー:「思い出の住居」の間取りを描く[3F書斎]
・住経験インタビューの国際展開 [リビング・ダイニング]
●展示会ギャラリートーク
○日時:12月7日 14時〜16時
○ゲスト:サトウアヤコ(日常記憶地図)/川井操(滋賀県立大学准教授)/浦井亮太郎(近畿大学助教)
ゲスト自身の住経験を踏まえながら今回の展示内容についての率直な感想や意見などのフィードバックをもらい、意見交換を行った。展示を担当した学生とのディスカッション、会場参加者やギャラリーオーナーとの意見交換などを行った。
●国際シンポジウム「Housing Design and Cross-Cultural Exchange through Dwelling Experience(住経験を通じた住宅デザインと異文化理解の可能性)
◯日時:12月14日 13時〜18時
◯会場:大阪工業大学梅田キャンパス
柳沢による住経験研究に関するイントロダクションと問題提起の後、まず海外と日本の建築家・研究者3名によるレクチャーを行った。続いて住経験インタビューを実施した学生5名(留学生2名を含む)がその成果発表を行った後、会場を交えて、住経験インタビューが住宅デザインおよび異文化交流に果たしうる可能性についてディスカッションを行った。
◯プログラム:
Opening: Takashi Ikejiri (Kindai University, Japan)
Introduction: Kiwamu Yanagisawa (Kyoto University, Japan)
[Lecture]:
Katinka Temme (Prof., Technical University of Applied Sciences Augsburg, Germany)
Ayan Sen (Ayan Sen Architects, Urban Designers and Planners, India)
Asako Yamamoto (ALPHAVILLE Architects, Japan)
[Presentation of Dwelling Experience Report]:
Tomoki Noda (Kyoto University)
Sun Wenqian (Kyoto University))
Yuta Shiosaka (Kyoto Institute of Technology)
Ma Pinchi (Hokkaido University)
Chihiro Kaneko (Hokkaido University)
方法
(実施スケジュール)
2024年
4月:実行委員会の設立、活動のスタート、企画の全体構成の検討。
5月:会場、展示内容、海外研究者の検討・決定(〜7月)
8月:展示会展示物の製作、海外研究者の招聘手続き(〜11月)
9月:展示什器のデザイン・製作、シンポジウムのプログラム立案(〜11月)
11月28日〜12月1日:展示会設営作業
12月2日〜15日:展示会【住み方発見!! Home Life Diaries in Japan】展開催
12月7日:展示会においてギャラリートーク開催
12月14日:国際シンポジウム「Housing Design and Cross-Cultural Exchange through Dwelling Experience」開催
12月15日:展示会撤収作業
2025年
1月:展示会・シンポジウムの感想等の集約・データ整理・展示什器の解体等
(実施体制)
住経験インタビューを実施している教員を中心に実行委員会を組織し、代表である柳沢が代表・全体統括を努めた。委員の池尻・野村・山本が主として国際シンポジウムの、水島・野田および柳沢が主として展示会の企画・準備を担当した。また、実施にあたっては実行委員の勤務校の学生・研究室の多大な協力を得た。
◯主催:国際住経験会議実行委員会
柳沢究(代表・京都大学大学院准教授)/池尻隆史(近畿大学講師)/山本麻子(アルファヴィル代表・大阪工業大学准教授)/水島あかね(大阪工業大学教授)/野村理恵(北海道大学大学院准教授)/野田倫生(京都大学大学院博士後期課程)
◯展示会構成・展示物制作:京都大学柳沢研究室/大阪工業大学山本研究室/近畿大学池尻研究室/モクテキ工藝社
◯展示会運営協力:大阪工業大学水島研究室
◯シンポジウム運営協力:柳沢京都大学柳沢研究室/近畿大学池尻研究室/大阪工業大学水島研究室/大阪工業大学山本研究室/北海道大学建築計画研究室
◯協力:金森秀治郎(ギャラリー日本橋の家)/大阪工業大学/日本建築学会近畿支部住宅部会
結論・考察
本活動のベースとなっている「住経験インタビュー」は、日本の建築計画学の厚い伝統の上に構想され、2013年以来、建築学生向けの教育・研究プログラムとして10年にわたる実践経験がある。これまでに数多くの事例を分析し学術的成果としてまとめるとともに、2020年にはデルフト工科大学でも同プログラムを実施し、住経験インタビューに基づく展示やディスカッションは、異文化間の相互理解と交流に大きく資することを確認した。本活動はこれらの経験に基づき発案されたものであり、住経験をテーマとした初の一般公開企画であった。
展覧会は13日間という会期、11時〜日没までという限られた開館時間にもかかわらず、およそ500人の来場があり、コンパクトな会場が大いに賑った。来場者アンケートからは平凡で「普通」の住まいの多様さや、海外の学生の住経験を通じた異なる住文化にビジュアルに触れたことへの驚きの声が多く見られた。とりわけ住まいの遍歴を図とともに示した展示、中庭における住み方の空間展示に対しては反響が大きかった。主催者としても、住経験という視点への関心の高さやその伝え方・表現手法について改めて考えさせられることになった。
国際シンポジウムでは、学生や建築家・研究者を中心に約50名の参加があった。現役の建築家でもある招聘講師2名の発表からは、どのようなデザインや素材が好ましい住経験を育みうるかという視点の提示や、生活環境との多様な応答の経験をもつことが建築家としての素養を育む上で重要であるという提言がとりわけ印象的であった。学生の発表に対しては、建物だけでなく生活の様相をきめ細かく観察・描写する日本の建築計画学に特有の平面図表現の時間的連鎖が、人物に限らず家族の歴史を読み取ることを可能にし、そのことが地域の歴史や文化をも豊かに描きうることが改めて確認された。また特に日本の和室について、決まった部屋の呼称がなく変化する用途に応じて呼ばれたり、そこを占用する家族の名前で呼ばれたりすることの特殊性が異文化の視点から指摘されたことも興味深い議論であった。
総じて本活動を通じて、両親・祖父母へのインタビューという形式をとる住経験インタビューが、自身のルーツであるファミリーヒストリーの探索という普遍的関心に応えるものとして様々な国において幅広く受け入れられる可能性があることに確信を深めた。またその住経験を聞き描くという営みが、同時に文化の固有性を描き出し、その教育や世代間継承に資する価値をもつことがより明確になった。本活動の成果を活かしながら、今後も住経験研究の展開・普及につとめていきたい。
英文要約
研究題目
Dwelling Experience Interviews spreading around the world / Home Life Diaries in Japan:
The potential of cross-cultural exchange and new housing design through diverse housing and lifestyles around the world as revealed by dwelling experience
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
YANAGISAWA Kiwamu
Associate Professor, Graduate School of Engineering, Kyoto University
本文
In the “Dwelling Experience Interview (DEI)” devised by us, architecture students interview their parents and grandparents about the dwellings they have lived in and the lifestyles there. DEI can depict the changes in living spaces and lifestyles from around 100 years ago to the present day, along with floor plans, which will be an extremely valuable resource for understanding the culture, values and way of thinking of a particular country.The aim of this activity is to further develop the international expansion of DEI and to build a foundation for cultural exchange based around DEI.
From 2013 to 2023, around 500 students from seven Japanese universities and two overseas universities conducted DEI, producing around 3000 drawings of houses and depicting how they were lived in. The participating students included many international students studying in Japan from over a dozen different countries. In this activity, we held an exhibition of the results of these DEI, and disseminated the potential of DEI as a tool for understanding living culture and for housing design. We also held an international symposium, inviting overseas architects and researchers, and held discussions focusing on cross-cultural understanding and international exchange through DEI.