審査講評
テーマ:「100年の建築」
審査員/永山 祐子 氏
全体の講評
100年の建築というお題を考えていた時にわたしの中で明確にイメージがあったわけではない。自分たちの想像を少し超えた、かといって途方もない時間ではなく、1人の人間の一生より少し長い100年、を若い世代がどう捉え、建築という表現にしていくのかとても興味があった。100を超えた数の作品が集まりそれぞれに自分が想像しうる未来を予測しながら多様な提案が並んだ。全体の中で私が気付かされ、そして評価する重要なポイントとなったことは2つある。一つは建築である以上、場所性がきちんと活かされているかどうかである。その場所の持つコンテクストを100年というスパンで考えられたかというところがポイントだ。場の歴史から見たら100年はほんの一瞬の出来事も言える。 場所が特定の場所であっても不特定の場所であっても建築をきっかけにその場所にどんなアクションが起こせたかが重要に思う。もう一つは100年は今という日常の連続であり、そんな自分のリアルな日常の中から真摯にテーマを見つけられたかどうかである。この2つのポイントが感じられる作品が受賞した。残念ながら今年は大賞がなかった。それはコンセプトは説得力があるけれど最終的な表現力がもう少しという作品、その逆もあり、両方を持っている作品が見つけられなかったからだ。今回のお題を通して私自身も建築の根源的なあり方を考えるきっかけとなった。
優秀賞 田村陸人
作品名 Dwellings with a lifespan
100年先の未来の住宅地は敷地境界線がもっと緩やかになり、住宅同士が繋がりあって新しい魅力的な共同体をつくっていくという提案。個々に起きている住宅の変化を住宅地全体で共有し、空いた場所を緩やかに繋いで有効活用していく姿は個々の空き家の活用を超えた新しい個人と共同体の在り方を提示している。境界線が緩やかになっていく姿は土地や家の所有そのものの新しい在り方を象徴しており100年後の未来の住宅地の姿を想像させられる。
優秀賞 谷米匠太
作品名 Living house
私小説のように1人の人生に寄り添いながら変容していく住宅。始まりの4m2から最後の150m2まで家族構成の変化に合わせて小さなマイナーチェンジを含んだ増殖がされていく。小さな模様替えレベルのベッドの向きが細かく変わる様子や、エントランスが変わったりアプローチが変わったり、人生の物語に合わせて綴られる細やかなプランの変化を細かいところまでついつい目で追わされてしまう魅力的な作品であった。100年という一見長い時間はこのような日常の積み重ねの上にあることを再認識させられる作品であった。
優秀賞 桂良輔
作品名 景に倣い、風景をつくる
かつて水路の町であった滋賀県伊庭町。昔は生活を支えていた水路が暗渠となっている現在の風景から
また100年をかけて水路の街に戻していくという壮大な計画である。未来を描くとき、ただ前を向くだけではなく過去に消えていった街の記憶を復活させて新しい風景を作る試みはとても素晴らしい。ぜひ実現させて欲しい。
優秀賞 中川颯人
作品名 H家再生
能登半島地震での地震の実体験から家を廻る記憶の継承の大切さに改めて気づき、ただ壊して新しくするのではない、木造戸建て住宅を未来への繋ぎいでいく方法の提案。従来の木造建築の物理的な耐用年数を超えて“愛着“という人々の想いによって延命していくことは現代の建築の存続を考える上でとても大事なキーワードである。
優秀賞 田中紘大
作品名 浮かび上がる漁村
熊本県天草市崎津の漁村特有のコンテクストを象徴する風景であるカケとトウヤを護岸の侵食に合わせてあえて水上空間として展開していき、懐かしく新しい風景を創出させていく魅力ある提案である。今後気候変動によって海沿いの風景が変わる可能性がある中でもその状況にうまく適応していく未来志向の提案であり印象深かった。
奨励賞 織田可久瑠
作品名 街の前世が作る街
東京の木密地域の記憶を保存しながら次の100年に繋げるために木造住宅を型枠に新しい建築を作る提案。外は緑に覆われた基壇のように見える塊の中はかつての木造建築の跡が残る記憶の空間。古いものを転写した新しい建築空間はファンタジーのある提案だが、実際に見てみたいと思わせる魅力があった。
奨励賞 山田紘平
作品名 新築100年目の土塔
電信柱地下化に伴って街の風景の一部となっていたインフラの象徴が今度は塔状の地域のコミュニティスペースとなる。一定間隔に必ず立つ電信柱が塔となることで地域全体を俯瞰する新しい視点場となり、風景の中のシンボルとなっていくストーリーがとても面白いと思った。
Profile
永山祐子 / 有限会社永山祐子建築設計 取締役 一級建築士
1975:東京都生まれ
1998:昭和女子大学生活科学部 生活美学科 卒業
1998:青木淳建築計画事務所 入社
2002:青木淳建築計画事務所 退職
2002:永山祐子建築設計 設立
2020― 武蔵野美術大学 客員教授
主な受賞歴など
世界で跳躍し未来を照らす建築家
国内外の大型プロジェクトで活躍し、注目を集める建築家の永山祐子氏。
ドキュメンタリー番組「情熱大陸」(2023年5月14日放送)に出演されました。
主な仕事に〈LOUIS VUITTON 京都大丸店〉〈丘のある家〉〈カヤバ珈琲〉〈木屋旅館〉〈豊島横尾館(美術館)〉〈渋谷西武AB館5F〉〈女神の森セントラルガーデン(小淵沢のホール・複合施設)〉〈ドバイ国際博覧会日本館〉〈玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ〉〈JINS PARK 前橋〉〈TOKYU KABUKICHO TOWER〉など。現在、東京駅前常盤橋プロジェクト〈TOKYO TORCH〉、2025年大阪・関西万博〈パナソニックグループパビリオン『ノモの国』〉〈ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier〉などの計画が進行中。
主な受賞に「ロレアル賞奨励賞」「JCDデザイン賞奨励賞」(2005)、「AR Awards」(UK)優秀賞(2006)〈丘のある家〉、「ARCHITECTURAL RECORD Award, Design Vanguard」(2012)、「JIA新人賞」(2014)〈豊島横尾館〉、「山梨県建築文化賞」「JCD Design Award」銀賞(2017)、「東京建築賞優秀賞」(2018)〈女神の森セントラルガーデン〉、「照明学会照明デザイン賞」最優秀賞(2021)〈玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ〉、「iF Design Award 2023 winner」〈JINS PARK 前橋〉など。
(令和6年度)第31回ユニオン造形デザイン賞
テーマ:「100年の建築」
審査員:永山 祐子氏 審査講評
賞 | 受賞者氏名/所属機関 | 作品名 | 共同制作者 | 賞金 (単位:千円) | |
優秀賞 | 田村 陸人 東京科学大学大学院 環境・社会理工学院建築学系建築学コース | Dwellings with a lifespan | 作品 | 500 | |
優秀賞 | 谷米 匠太 株式会社関・空間設計 設計監理部 | Living house | 作品 | 500 | |
優秀賞 | 桂 良輔 フリーランス | 景に倣い、風景をつくる ~繕いによる町の新たなネットワーク~ | 作品 | 500 | |
優秀賞 | 中川 颯人 信州大学大学院総合理工学研究科 工学専攻建築学分野 | H家再生 ~石川県能登町における被災住宅再生計画~ | 作品 | 500 | |
優秀賞 | 田中 紘大 鹿児島大学大学院理工学研究科工学専攻建築学プログラム 建築、都市計画 | 浮かび上がる漁村 | 作品 | 500 | |
奨励賞 | 織田 可久瑠 フリーランス | 街の前世がつくる街 | 作品 | 200 | |
奨励賞 | 山田 紘平 広島大学大学院先進理工系科学研究科 建築学 | 新築100年目の土塔 | 作品 | 共同研究者/ 李皓 秋山友希 | 200 |
合計7件 | 総額 2,900 |