研究報告要約
調査研究
30-124
福島 加津也
目的
持続可能社会における環境維持の観点から、近年の日本では木造建築に対する注目が高まっている。しかし、その注目はCLTなどの最新技術や宮大工のような伝統技術に向けられることが多く、両者の間にある近代の木造建築については情報を目にすることが少ない。
現代日本の主な木造技術である在来木造は、寺社仏閣や民家の伝統的な木造技術を源流とし、それに明治以降に西洋から輸入された近代的な木造技術を取り入れることにより、独自の進化を遂げてきた。特に、近代初期のドイツによる住宅の大量生産を目的とした工場生産の乾式構造と、体育館や教会などの大空間を作るための新興木構造は、日本の木造建築に大きな影響を与えている。
しかし、これらの技術がどのように生まれ発展したのかは、日本はもちろんドイツでもよくわかっていない。このため、本研究ではドイツの近代初期の木造建築の歴史を再発見することで、現代の木造建築に役立つデザインの手がかりを得ることを目的とした。
内容
ドイツの近代初期の木造建築について、包括的にまとめられた資料がドイツでも存在しなかっため、本研究は関係する断片的な資料を集めることから始まった。ドイツ語の論文や書籍、ウェブサイト、当時のドイツの木造建築物を紹介する日本の建築雑誌を調査し、その中から本研究に適する建築物を抽出し、その建築物が現存することをEUの木造建築データベースで確認して、現地調査で訪れる建築のリストを作成した。
本研究の核である現地調査では、実際の建築物を訪れて、実測や写真撮影、文献採集や使用者への聞き取りなどを行って、調査資料として採集した。加えて、博物館の訪問や専門家との意見交換を行い、日本では得られない現地の情報を収集した。
帰国後は、現地調査で得られた資料の整理と写真の編集、並びに見学した建築物のCAD化を行い、デザインに役立つ資料として研究内容をまとめた。最終的に、本研究で得た知見を幅広く共有することを目的として、研究で得られた資料を元に書籍の出版を進めている。
ショットランダー邸(1927)
ヴッパータールの体育館(1911)
デューレンのキリスト教会(1953)
方法
現地調査は、2018年10月18日から31日までの2週間で行われた。見学リストに基づき、①フランクフルト、②ケルン、③ベルリン、④シュツットガルト、⑤デュッセルドルフの5都市を拠点として進められた。それぞれの建築物の資料は、紙媒体でもウェブ媒体でも存在しないことが多いため、下記の4点を心掛けて調査を行った。
1.それぞれの建築物の文章資料と図面資料の有無を確認した。
2.図面資料が収集できなかった場合は、平面図と断面図を作成できるように実測調査を行った。
3.建築の空間やディテールを記録するために、できるだけ対象に正対して撮影を行った。
4.所有者や使用者にできる限り聞き取り調査を行い、その建築物のオーラルヒストリーを採集した。
また、近代初期の木造建築物を、歴史的事実だけではなく、現代にも関連するテーマとして捉えるため、ドイツ人建築家や木材を専門とする大学教授など、現代の木造建築に異なる立場で関わる複数の専門家とも意見交換を行った。
結論・考察
今回の現地調査では、近代初期のプレハブ工法の住宅を5件、新興木構造の大空間を8件、民間の木材会社による住宅地開発を2件の計15件を現地調査した。その結果、ドイツには貴重な近代初期の木造建築が相当数現存していることが分かった。それらは第一次と第二次世界大戦後の建築難に対応するために、大量生産と大型化を目的として建てられたものであった。
今回調査したドイツの木造建築の大量生産と大型化は、大きく二つの流れにまとめることができる。
1.工場生産と現地組立によるプレハブ工法。民間の木材会社が開発した先端技術を用いていた。
2.現場施工とマニュアルによるゼネラル工法。地域の工務店でも施工できる普及技術を用いていた。
近代建築の重要な目的である大量生産と大型化に対して、ドイツでは木造建築が大きな役割を果たしていた。しかし、これまで近代建築では、木造建築が取り上げられることは少なかった。このため、木造建築の再発見は近代建築史にも大きな意味を持つ。
英文要約
研究題目
Rediscovering the Lost Early Modern Timber Architecture in Germany
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Katsuya Fukushima
Department of Architecture, Faculty of Engineering, Tokyo City University Professor
本文
This research focuses on the timber architecture built in the Weimar Republic period of Germany, which contributed significantly to the early periods of the modern architecture movement. The timber architecture in the Weimar Republic era was led by the timber construction companies and they worked with architects such as Konrad Wachsmann and Walter Gropius. The tectonics invented in this era, such as the drywall structure houses and the large span timber halls, were imported to Japan, where they merged with the traditional tectonics and became today’s standard way of building in timber. Even of this historical importance, the timber architecture of this time is not only unrecognized in Japan but also in Germany. Thus, the purpose of this research is to rediscover the history of timber architecture in the early modern times of Germany and find ideas relevant to the timber architectural design.