研究報告要約
調査研究
5-101
永井 拓生
目的
近年、国連SDGs目標の採択や低炭素社会実現を念頭に、国外では竹利用への関心が非常に高まっている。竹の建築構造利用に関する研究は、とりわけ2010年以降、急激に増えている。また、竹建築物の建設も数多く行われているが、その一方、竹や竹造建築物の耐久性や耐用年限に関する研究は少なく、未発達の分野である。あわせて、竹造建築物の居住性や建設およびライフサイクルにおける環境負荷評価(LCA)に関しても、ほとんど研究が行われていない。
竹は貴重な建築資材でありながら、同時に貧困地域の生活の重荷にもなってきた。発展途上国では竹のことを「Poor man’s timber」と呼ぶことがある。住宅の構造材として使用される竹の多くが生竹(非保護処理竹)であり、1~2年で急速に劣化する。このため頻繁な更新が必要となり農村地域で大きな負担となってしまい、そんな状況を揶揄する言葉である。国連人口部は、2050年には世界人口は約100億人弱にまで増加すると予測しているが、その地域の多くはアフリカを始めとした赤道を挟んだ南北地域の発展途上国で、住居空間の爆発的な建設需要が予測されている。同時に、これらの地域は竹の植生地域でもあり、膨大な建設需要のうち少ない割合であったとしても竹を利用することは地産地消につながり、地域の雇用等の経済的側面に加え、建設産業に関係する温室効果ガスの排出削減に貢献しうる。
そこで、本研究では、赤道周囲の温暖地域を想定した竹構造住宅のモデル設計を提案することを目的とする。竹構造建築物はこれまでに南米や東南アジアにおいて数多く建設されてきたが、それらの多くは観光リゾートを目的としたものや集会所やホール等の中・大規模集客施設が多く、一時的もしくはせいぜい数日間の滞在が目的の建物がほとんどであり、日常生活のための戸建て住宅や共同住宅の建設例はあまり多くない。したがって、竹構造の建物が日常的な居住に十分耐えうるものかどうか、毎日の暮らしが快適に過ごせるかどうかは、実はあまり検証されておらず、竹構造建物の居住性、耐久性・耐用年限の評価、およびLCAの手法を確立することは、今後、竹建築の普及を目指すにあたり大きな意義を持つと考える。
内容
本研究では竹構造住宅のLCA評価を行うことためのデータベースを構築することを長期的な目標とし、そのために必要不可欠となる構造耐力および耐久性に関する物性値や性能の定式化方法について検討を行った。なお、研究助成申請の段階においては竹構造の小規模な試験小屋を制作し、施工性や環境性能の計測を実施する予定としていたが、研究期間における材料費や建設関係人件費の高騰の影響を受け、当初の研究目的はそのままに研究内容を変更し、以下の項目を実施することとした。特に、本助成研究においては(1)を主な課題として実施した。柱は言うまでもなく重力やその他の短期的な荷重によって建物に生じる応力を地盤に伝えるための極めて重要な部材であり、柱の耐久性、性能の時間変化を定量的に把握することは、竹構造建築物のライフサイクル評価において極めて重要な情報の1つになりうる。
(1)丸竹の圧縮耐力の定式化と時間変化の検証
(2)竹の耐久性および保護処理効果の検証
(3)丸竹構造の試験小屋の試設計
方法
(1)丸竹の圧縮耐力の定式化と時間変化の検証
保護処理の有無、風乾保護期間1~2年をパラメータとし、マダケ・モウソウチクの丸竹柱の圧縮耐力試験を実施し、圧縮耐力の時間変化の要因分析を行った。また、実験結果より実際の竹構造へ使用することを想定し設計用圧縮耐力の算出を試み、国外における既往の評価式(NSR-10およびISO 22156)との比較を行った。
(2)竹の耐久性および保護処理効果の検証
保護処理後の試験体(モウソウチク)について、化学的特性として主要構成成分(FTIR分析)、セルロース結晶化度および糖含有率の測定ならびに力学的特性として横圧縮試験を行った。耐久性については、熱や紫外線などの自然環境に関わる気象因子に対して屋外暴露試験を、菌類、カビ、害虫などの生物的劣化因子に対し野外杭試験を行った。
(3)丸竹構造の試験小屋の試設計
竹構造建築物の各部位における時間変化の観察および環境性能の計測を行うため、温暖地域を想定した竹構造住宅の一部分を想定した試験小屋の試設計を行った。
結論・考察
(1)丸竹の圧縮耐力の定式化と時間変化の検証
曲げヤング係数については、風乾期間を経るにつれ、稈直径が小さな領域ではやや増大、稈直径が大きな領域ではやや減少する傾向が見られたが、その程度は小さく、おおむね、2年以内の風乾保護では曲げ剛性に大きな変化はないと考えられる。
一方、丸竹柱の座屈耐力は伐採直後と比べ風乾保護した試料では大きく増大する傾向があった。また、竹稈の短柱圧縮強度もやはり風乾保護を経て平均値が大きく上昇しており、その他の強度も保管期間を経て全般的に増大する傾向が見られた。この理由は主として含水率の低下によるものと思われ、含水率が40 %以上の試料においては含水率の低下とともに耐力が上昇する傾向がある。ただし、含水率が5~40%程度の範囲では、含水率による強度の変化はほとんど生じないことも確認できた。
丸竹柱の設計用圧縮耐力をNSR-10(コロンビアの設計コード)とISO 22157に従い試算した。いずれの算定式においても、細長比が大きい(座屈耐力が小さい)領域においては、安全率が小さめになる傾向があり、細長比に応じて安全率を制御することが望ましいと考えられる。
(2)竹の耐久性および保護処理効果の検証
ホウ酸処理は竹材の材質にほとんど影響を及ぼすことはないが、暴露により割れや力学的特性の低下が生じやすい。他の方法に対し油熱処理は高温で処理することで処理後の材質が脆性的になるものの、140℃程度までの温度であれば処理後の材質の変化が比較的小さかった。割れが生じにくく力学的特性の劣化も小さいため、耐久性に対する効果が最も高い処理方法と言える。燻煙処理では、高温での処理のため材質が多少脆性的になるが、耐久性に対する効果はある程度確認できた。
(3)丸竹構造の試験小屋の試設計
竹構造住宅の実現性・居住性の検証を目的として、小規模な実大モデルの計画を行った。同モデルでは、屋根・床の構造に丸竹をアーチ状に曲げた「Bending-active bamboo」工法、外壁に「Bahareque wall」と呼ばれる伝統的な竹下地土壁工法を採用している。現在建設を進めており、建設後、構造工学的検証を行って性能確認を行うほか、各部工法・施工性の確認、各部位の時間変化の観察を行う。また、夏季の温熱環境の計測を行い、室内環境について検証を行う予定である。
英文要約
研究題目
Model design, LCA, and habitability evaluation of long-life bamboo-structural housing in warm regions where population growth is expected
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
永井拓生
滋賀県立大学環境科学研究科
講師
本文
In this study, we aimed to build a database for the LCA (Life Cycle Assessment) evaluation of bamboo-structured housing as a long-term goal. To achieve this, we examined the formulation methods for physical properties and performance related to structural strength and durability, which are indispensable for such a database. In particular, this grant-supported research focused on the following main tasks:
1. Formulation of Compressive Strength of Bamboo Poles and Verification of Time-related Changes
The compressive strength of bamboo poles, which had been air-dried for 1–2 years after harvesting, generally increased compared to bamboo poles immediately after harvesting. Other strengths also showed a general increase, likely due to the decrease in moisture content. Over a period of around two years, no significant changes in compressive strength were observed.
2. Verification of Durability and Protective Treatment Effects of Bamboo
The widely used boron-based treatment has little impact on the physical properties of bamboo but proves to be largely ineffective in outdoor environments. On the other hand, thermal oil treatment had minimal effect on the physical properties and significantly improved durability. Smoking treatment was found to slightly increase the brittleness of the material.
3. Preliminary Design of a Bamboo Structure Test Building
To examine the feasibility and habitability of bamboo-structured housing, we planned a small-scale full-size model. This model adopts the “bending-active bamboo” technique, where bamboo poles are bent into arches for the roof and floor structure, and the traditional “Bahareque wall” technique, which uses bamboo frames for earthen walls for the exterior walls. Construction is planned for 2024.