研究報告要約
調査研究
5-118
長谷川 聡
目的
寒冷地冬季の生活では、降雪や路面凍結といった大きな物理的障壁があり慎重な歩行が求められる。特に、幼少児のいる家庭の労力を改善すべく、前採択研究では「雪道ベビーカーのアタッチメント」に取り組んだ。
しかし、寒冷地冬季の悪路は、当該居住者のみではなく、多くの観光客や出張で訪れるビジネスマンにとっても永らく改善されない寒冷地の大きな課題である。それは長時間雪道等(特に新雪)でキャスターが機能しないままの使用は、多くの雪を引きずり腕に大きな負荷がかかるだけでなく、キャスターを破損するとともに、それ自体に雪が凍結し、そのまま駅・空港等の土産物店、ホテルのロビー等に持ち込むと、石や磁器タイルの床上に生じた雪融け水で転倒し、怪我を負う事態が頻繁に生じている。
それゆえ、❶既存のキャリーケースに簡単に装着でき、❷雪が付着しにくく簡単に振り払うことができ、❸付着した凍結塊を屋内に持ち込むことなく、❹アタッチメントを取り外すことなく、屋内をそのまま走行できる、ことを実現すべく実証したい。これにより、国内外を問わず観光客や出張時のビジネスマンの労力を大きく低減し、寒冷地への冬季の訪問の労力を払拭したい。
内容
雪道、アイスバーンといった厳冬期におけるスーツケースの走行については、これまでに先行研究として学術的に検証されたものはなく、一昨年に採択を受け、デザイン開発・評価試験を行った「雪道ベビーカーアタッチメント」*(以降、前採択研究と記す)のみである。これは、降雪地で子育てをするユーザーに対する研究だが、実は、雪に不慣れな、降雪地に厳冬期に訪れる旅行者や、出張のビジネスパーソンにとっても「圧雪路面」でない場合、スーツケースで積雪のある道では、雪を根こそぎ引き摺ってしまい腕に相当な負荷がかかる。札幌市などでは日常的に見受けられるが永らく解決されておらず、海外にも降雪する大都市は数多ありながら、この問題の解決を試みた先行研究や既製品はない。
前採択研究で得た成果は、❶ボード滑走面からの出(地面からの最適距離: 3~4mmの浮き)、❷同キャスターの配置位置、❸車輪とアタッチメントの確実な固定の3点を満たさなければならないことが分かった。
これに対し今後の課題として、滑り易さを実現することと、試作製作上のコストを考え割愛したものだが、滑走面が平らで滑らかなため、①走行方向性が安定しない(路面の傾斜で横滑りしてしまう)こと。尚、解決策としては、滑走面にリブ状の凹凸をつけることは分かっている、②全ての子育て世帯に万能ではないこと。である。
これは、札幌での実地試験の際、中心街はロードヒーティングをしているエリアも多いことなどが判明した。(中心街札幌─大通─すすきの間は地下通路利用者が多い。この研究成果と課題から、下図にあるようにスーツケースは傾けて使用することから、本研究では下右図のような構造で、アタッチメント下面に 3~4mm浮く車輪と対を成す、エッジ部分に車輪を有す、スーツケース用の雪道走行用アタッチメントを想起した。これにより、積雪地において、雪に不慣れな観光客にとって、移動の負荷を軽減したい。(※全採択研究でのモックアップは次項右図)※今研究で目指す製品図
方法
本研究計画は、前採択研究の開発、評価試験を通じて得た成果と課題を通じて導き出されたものである。研究の行程は、前採択研究の発展であるため、その行程を踏襲し、以下の実施計画を下図左にまとめた。具体的には、先行製品を想定環境で使用した評価試験を行うことで問題点を抽出し、そこで得た結果をもとに簡易試作の設計を行う。そして、簡易試作を製作の上、実際の環境でテスト走行を行い、そこで得たデータを元に問題点を改善の上、精度の高いモックアップを、試作製作企業と、素材、構造、工法等を、検証の上で製作し、権利関係を押さえた上で、専門家やユーザーによる評価試験を経て、その結果を論文として執筆し、学会に査読論文を投稿する。また、メディアへの積極的な発表や、ビジネス展などの展示会に出来る限り出展し、製品化を目指すことで、社会に役立てたい。申請者は、現在は広島に研究の拠点をおいているが、前職は、道内の高等専門学校であったため、他の研究者や、技術職員と共同研究を継続している関係にある。また、北海道立総合研究機構の研究員とも、これまでに共同研究を行った関係にあり、研究や評価試験に対する助言や、設備を利用させて頂くことができる関係にある。また、評価試験においては出来る限り、実際に降雪の様々な条件・環境(パウダースノー、ベタ雪、圧雪路、アイスバーンなど)で実施する。
結論・考察
まず、本研究の申請時は、雪道走行用ベビーカーアタッチメンの成果に基づいた、雪道走行用キャリーケースのアタッチメントの開発を想定していたが、同じ雪上の走行でも、体重を乗せて前方に押し出すことと、腕の力で前方に引張ることでは人の感覚に大きな違いがあることが分かった。また、いくらボードの面が滑走しやすく抵抗の少ない滑面であっても、雪に接触する面がある限り雪と付着した面に抵抗が生じていることから、接触する面を減らすことを考えたところ、キャリーケースの走行する方向に対して、その本体の両サイドに紙1枚のように薄いキャスターがあり、雪面に接しない高さにキャリーケースを配置することが出来れば、理想的なキャリーケースアタッチメントになると考え、当初とは全く異なる構造モデルを目指した。更に、着脱しやすく取り外して持ち運びを想定し、折り畳みコンパクトになるところまでモデルを検証した。
最終的な製品化にあたっては、ある程度の強度が期待できつつ、雪面を走行しない時を考慮し着脱がしやすく、コンパクトになる硬質プラスチック等の材質を考えているが、大きくモデルの構想が変わったため、できる限り多くの異なる試作をつくり比較検討することを考え、ホームセンター等で安価なスチール製のパーツ等を購入して5つのモデルを製作した。
○評価試験モデル
①高さ150mm/両サイドスチールプレート・タイプ
②高さ150mm/コの字形フレーム・タイプ
③高さ200mm/コンバイン刈取部・タイプ
④高さ250mm/木口10mmメッシュボード・タイプ
⑤高さ150mm/船首型・タイプ
○評価試験結果
キャリーケースは45°に傾斜させて使用することが理想とされているため、同一の状態で試験を行なった。
①高さ150mmのキャリーケースを45°傾斜させると、走行時の高さは106mm程になる。積雪降雪地外部公共空間・社会基盤の専門家によると、札幌市等の都市部で降雪後に除雪されるまでの不自由な積雪高は100mm以下程度ということであり、このモデルは全く雪による抵抗を感じることない走行ができた。
②①モデル同様に抵抗は感じなかったが、ややフレームの強度について検討が必要である。
③キャリーケースの荷重を複数のフレームで安定させることができるかの検討であったが、フレーム間のピッチが狭いと、フレーム間に付着した雪の凍結が見られ難があることが分かった。
④高さ200mmモデル走行時の高さは141mm程度になるが高さ150mmモデルの方が走行しやすい。ワイヤーメッシュも着した雪が凍結する可能性があることが分かった。
⑤船が水を掻き分けることをイメージしたモデルだが、走行させるためにキャリーケース本体を傾斜させると、船首状の形態が安定しないとともに、雪を掻き分けようとも雪と接触させないうようにすることが第一だということが分かった。
このように、最も理想的な使用方法を実現すると考え構想した①のモデルが有用であることが確認できた。
当初の構想が、令和5年12月の第1回目の簡易実験で分かったため、大きく方向転換した試験を令和6年2月にの第2回目の簡易実験で多くのタイプの検証を行い、同年3月の第3回目で最終試験を行う予定であったが、滞在期間中に札幌の降雪がなく、年度を跨ぎ、令和7年の12月の雪道で最終モデルを試験したところ、大きく負荷を低減することが出来た。
英文要約
研究題目
Research on attachment sliding parts for both indoor and outdoor use to improve travel and safety of carrying cases on snowy and icy roads
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Satoru Hasegawa
Yasuda Women’s University Faculty of Human Ecology Department of Aesthetic Design and Technology
Associate Professor
本文
First, at the time of application for this study, the research was on attachments for carrying cases for driving on snow-covered roads, considered as based on the results of stroller attachments for driving on snow-covered roads. It was found that there is a significant difference in the way people feel when pushing forward with their weight on the snow and pulling forward with their arms, even when driving on the same snow. No matter how easy the board surface is to glide and how little resistance it has, as long as there is a surface in contact with snow, there will be resistance on the surface that is in contact with snow, so we have considered reducing the number of surfaces in contact. We thought it would be an ideal carry case attachment if the casters were as thin as a sheet of paper on both sides of its body in relation to the direction in which the carry case is traveling, and if the carry case could be positioned at a height where it does not touch the snow surface. Furthermore, the model was verified to the point where it can be folded and compacted, assuming it is easy to detach and remove for carrying.In the final product development, we are considering materials such as hard plastic that are expected to have a certain degree of strength, but are easy to attach and detach and compact when not traveling on snow surfaces.Five different prototypes were tested.
After running tests on five different prototypes, we were able to create an attachment for a carrying case that facilitates driving on snow-covered roads.
Evaluation test model. Five different prototypes were tested.
[1] H:150mm /Steel plate type on both sides. [2] H:150mm /U-shaped frame type. [3] H:200mm / Combine harvester, typeIron. [4] H:250mm / Iron◻︎ formwork 10mm mesh board type. ⑤ H:150mm / IBow type.
[ 1 ]This model was able to travel without feeling any resistance from the snow at all.